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出社回帰はなぜ起きるのか - TeamworkQualityとORSC®︎
2026/3/18
2025年以降、出社回帰の波が世界中で起きています。AmazonやGoogleをはじめとした大企業が「週5出社」を求め、日本企業もその流れに追随しつつあります。
リモートワークが定着し、生産性も大きく落ちなかったはずなのに、なぜ今「オフィスに戻れ」という声が強まっているのでしょうか。
「コラボレーションが生まれにくい」「文化が薄れる」「若手の育成が難しい」「ワークエンゲージメントの低下」。
経営者たちはさまざまな理由を挙げます。しかしそれらは本当に、出社回帰の本質的な理由なのでしょうか。
この記事では、TeamworkQuality(TWQ)という研究概念と、ORSC®︎(組織と関係システムのコーチング)の視点から、出社回帰という現象の裏側にある心理と、本当に必要なものを考えてみたいと思います。
経営者に忍び寄るFOMO
「生産性が下がる」「イノベーションが生まれない」。
出社回帰を求める経営者の言葉は、一見合理的に聞こえます。しかし、その言葉の裏側にある感情を注意深く観察すると、別の何かが見えてきます。
それがFOMO(Fear of Missing Out)です。
FOMOとは、自分が関与できていない場所で何か価値あることが起きているという不安感のことです。リモートワーク環境では、経営者やマネージャーはチームの日常を直接目にする機会が減ります。「自分の知らないところで何かが起きている」「自分がコントロールできていない」という感覚が、じわじわと不安を生み出します。
ここで重要なのが、意思決定における感情とrationalization(合理化)の関係です。
神経科学者のアントニオ・ダマシオのソマティックマーカー仮説が示すように、人間の意思決定は感情が先にあり、合理的な説明はあとからついてきます。「出社した方が生産性が上がる」という言葉は、結論ではなく、感情を正当化するために後から見つけてきた理由である可能性があります。
つまり出社回帰は、生産性の問題ではなく、経営者のFOMOとrationalizationが生み出した現象かもしれません。
出社回帰の誤謬
では、リモートワークで本当に失われたものは何でしょうか。
ノルウェーのオスロ大学とSINTEF研究財団のLindsjørnらが2016年に発表した研究「Teamwork Quality and Project Success in Software Development」は、71のアジャイル開発チーム、477人を対象にした大規模調査です。
この研究が示したのは、「チームワークの質(TeamworkQuality / TWQ)がチームのパフォーマンスと品質に直接影響する」という事実です。
TWQは以下の6つの要素で構成されています。
Communication / 対話:情報共有の頻度、形式、オープンさ
Coordination / 調整:並行作業における共通理解とスケジュールの合意
Balance of member contribution / コミットのバランス:メンバーの専門性を最大限に活かせているか
Mutual support / 相互支援:お互いをサポートし助け合える関係性
Effort / 努力:チームの目標を個人の都合より優先できるか
Cohesion / 凝集:チームの目標を共有し、一体感を持てているか
注目すべきは、これらの要素のどれひとつとして「どこで働くか」を問うていないことです。TWQは場所の問題ではなく、関係性の質の問題です。
さらにSQuBOK(ソフトウェア品質知識体系)も、「技術者のモチベーションやチームワーク、リーダーシップ、コミュニケーションが品質に直結する」と明記しています。
人間の知的作業の質には, モチベーションが大きく 関係する。 モチベーションの高い技術者が開発すると, 品質も生産性も向上す る。 逆にモチベーションの低い技術者が開発すると, 大量の誤りを作り込んだり深刻なプロジェクトトラブルを引き起こしたりするため,ともすると品質や生産性がマイナスになることすらある。 技術者のモチベーションを向上させるには, やりがいを感じ, 快適と感じられる環境が必要である。 また ソフトウェアは一般的にチームで開発するため, 個人のモチベーションだけでなく, チームワークや リーダーシップ, およびそれらを支えるコミュニケーションも重視しなくてはならない。
出社かリモートかという問いを立てる前に、TWQが高いかどうかを問うべきではないでしょうか。
出社だけが答えではない
出社回帰を求める経営者の直感は、完全に間違っているわけではありません。「チームの関係性が薄れている」「コミュニケーションの質が下がっている」という感覚は、TWQの低下を捉えているという意味で、本質を突いています。
問題は、その感覚への処方箋として「出社」のみを選んでしまうことです。
出社することで物理的な距離は縮まります。雑談が生まれやすくなり、表情が見えるようになります。それは確かにTWQのいくつかの要素に好影響を与えるかもしれません。出社回帰も、ひとつの答えです。
しかし、それが唯一の答えではありません。
TWQの本質は「どこで働くか」ではなく「どのような関係性で働くか」です。物理的な距離を縮めることなく、関係性の質に直接働きかける方法があります。それがORSC®︎(組織と関係システムのコーチング)のアプローチです。
チーム全体を対象としながら、ステークホルダーをチームの変容プロセスに巻き込み、見えない変化を可視化する。FOMOを引き起こさない設計をつくる。そして中立的な第三者として、Mutual supportを高める関係性への介入を行う。
出社かリモートかという問いに答えを出す前に、TWQという視点を持つことで、より本質的な選択肢が見えてくるのではないでしょうか。
ORSC®︎が出来ること
TWQの6つの要素の中で、最もチームパフォーマンスへの影響が大きいのはMutual support、つまり相互サポートであることがLindsjørnらの研究で示されています。
Mutual supportとは、コンフリクトの迅速な解決、建設的な議論、他者の貢献への敬意、合意形成の能力、そして良好な協力関係のことです。これらはスキルの問題ではなく、関係性の質の問題です。
同研究はアジャイルチームへの示唆として、「中立的な第三者を関与させること」「ジラフ言語(非暴力コミュニケーション)を活用すること」を具体的な対策として挙げています。
これはまさにORSC®︎が扱う領域です。
ORSC(Organization and Relationship Systems Coaching)は、個人ではなくチームや組織をひとつのシステムとして捉え、そのダイナミクスや関係性のパターンに働きかけるアプローチです。コンフリクトの背後にある声を引き出し、システム全体が持つ知恵にアクセスすることで、チームが自律的に変容していくことを支援します。
出社かリモートかという「場所」の問題を解こうとしている間、本当に必要だったのはMutual supportを高めるための関係性への介入だったのかもしれません。
そしてその介入を担えるのが、中立的な第三者としてのシステムコーチです。
※システムコーチング®︎、ORSC®はいずれもCRR Global Japan 合同会社の登録商標です
システムコーチングやアジャイルの実践に興味がある方は、ぜひTwitter @kubop1992のリプライやDM等でご連絡ください!色々お話しさせていだければと思います。